手綱の扶助
脚扶助の次は、手綱の扶助です。
手綱は、頭絡の一部で、銜(ハミ)につながっている綱のことです。
繋がっていますが、右側を右手綱、左側を左手綱と呼びます。
手綱の握り方は、小指が外に出るように上から握り、両拳を立て、上に出る手綱を親指と人差し指の第2関節あたりで挟みます。
拳を立てる角度の目安は、親指がハミの方向を向くようにしてください。
正しく握ると、薬指で手綱を引っ掛けている形になります。
余った手綱は、馬の頸の右側と右手綱の間に収めます。
5つの扶助
手綱はハミとつながっているため、ハミの操作のためだけに存在すると思われるかもしれませんが、頸への直接的な扶助も可能です。
手綱の扶助を、「拳の扶助」と表現される方もいらっしゃいます。
ここで使っている「手綱」という単語のいくつかを、「拳」と言い換えて使われるときも少なくありません。
手綱の扶助は大きく分けて以下の5つです。
- 手綱を引く
- 手綱を控える
- 手綱を譲る
- 手綱を開く
- 手綱を押す
手綱を引く
最初に申し上げますが、「手綱を引く」という扶助は馬術において好ましくありません。
なぜなら、理想的な運動をしているときに、馬とバランスよくコンタクトが取れた状態から「引っ張る」必要のある場面がまず存在しないからです。
手綱を引っ張る場面があるとすれば、それは理想的な運動をしていないときか、緊急事態のどちらかでしょう。
本来はこれを除く4つの手綱の扶助で指示が構成されるべきです。
手綱を控える(控え手綱)
手綱は「引く」ではなく「控える」であるべきです。
方法は、拳(特に薬指)を固め、(必要があれば)肘を少しだけ引き、手綱の張りを強めます。
「手綱を引く」も「手綱を控える」も、力の方向は後方です。
しかし、馬術に携わる人が言葉を使い分けるのには、やはり意味があるのです。
明確に説明するのは難しいですが、考え方とアプローチに違いがあります。
まず、手綱を引くことが動作的であることに対し、控え手綱には「静定」という状態的な印象があります。
もちろん、後方に力を加えているわけですから動作であることに違いはないのですが、「控える」の方は、「構える」「受ける」といった受動的なアプローチです。
そのため、「引く」と表現するほど大きな動作はなく、「張って静定しておく」というイメージです。
前進気勢がそこに必要であることは言うまでもありません。
なんとなくイメージしていただけたでしょうか?
やはり、「控える」という表現ほどふさわしい言葉はないと思います。
手綱を譲る
手綱を譲る方法は、張った手綱を弛め、前方に少し解放します。
肘を少し前に出して譲るのもひとつの手段ですが、拳(薬指)の握りを弱めるだけという譲りもあります。
「手綱を譲る」は「手綱を弛める」とも表現します。
直截的に「弛める」でもよいのですが、弛めた結果ハミを外してしまっては扶助と言えませんし、馬とのコミュニケーション(間合い)の中での「譲り」という意味合いも含むため、当サイトでは「手綱を譲る」と表記いたします。
「譲り」に関しては「【馬を褒める方法】愛撫をする・譲る」の後半部分で解説しています。
手綱を開く(開き手綱)
「控える」と「譲る」がハミを通じた扶助であることに対し、「開く」と「押す」は直接馬の頸に与える扶助です。
開き手綱の方法は、言葉の通りです。
拳の形は維持したまま手綱を開くように意識しましょう。
馬を曲げたいときに使う扶助として、まず初めに習うのが開き手綱だと思います。
開き手綱は、進行方向を明確に馬に伝えるために使います。
馬を曲げたいときに使うのが通常ですが、内方の開き手綱だけで馬を曲げるのは美しくありません。
内方後肢をしっかりと踏み込ませ、それを外方で受けるという回転扶助が理想的です。
しかし、上達すればまったく使わないというわけではありません。
準備運動や整理運動で自由常歩(速歩)をしているときも使いますし、障害飛越のコースでも使います。
また、馬に扶助を教えたいときなど、調教手段としても効果的です。
手綱を押す(押し手綱)
押し手綱は、馬の頸を反対側へ押すようにして使います。
手綱が弛んでいては押せるわけがありませんので、当然手綱は張っていなければなりません。
押し手綱の注意点として、拳が馬の背峰を越えてはいけません。
押し手綱は、馬場馬術も障害飛越も含め、様々な場面で使われます。
特に障害前の回転では大活躍をします。
おわりに
以上が主な手綱の扶助です。
手綱の扶助のバリエーションは5つだけではなく、さらにここから扶助の度合いによっても馬の反応を変えることができます。
例えば、強く控えた手綱は頸の屈撓につながりますが、外方で数ミリ(拳の握り加減)程度で控えた手綱は壁(制限)の役割を果たします。
このように、手綱だけでも多様な扶助が可能です。
さらに、手綱だけでなく、脚の位置や加減、重心の位置、反動、騎座の随伴具合、座骨のバランスなど、他にも様々な扶助が考えられ、これらを組み合わせることによって、幾千もの扶助を生み出すことができるのです。
扶助の考え方については「【馬に合わせた扶助】扶助に正解を求めてはいけない」を参考にしてください。
