駈歩とは?
駈歩は、左右非対称な動きで、3拍子のリズムで肢を運びます。
常歩や速歩との違いは、「3つの歩様」で解説しています。
駈歩の手前
駈歩の手前は、肢の運びにおける左右の偏りによって定義されます。
遅れて踏み込む前肢側がその駈歩における手前です。
回転方向と運歩の手前が一致しない場合、これを反対駈歩といい、馬場馬術では高度な運動として課目に組み込まれています。
肢の運び

駈歩では、片方の斜体肢だけが同時に動くため、左右非対称になります。
遅れて踏み込む前肢が内方になるので、肢の運びは以下の通りです。
「外方後肢 → 内方後肢+外方前肢 →内方前肢」
発進方法
駈歩の発進方法は、「収縮と内方姿勢を求め、外方脚を少し後ろに引いて、内方脚で発進の合図をする」です。
駈歩の発進は、「【馬に合わせた扶助】扶助に正解を求めてはいけない」で詳しく解説しております。
乗馬クラブによる調教の差や、環境や馬の個体差に合わせた扶助についても解説しているので、ぜひご覧ください。

駈歩の脚のタイミング
駈歩の脚のタイミングは、座骨が沈む瞬間です。
感覚的には、馬体を揉んでいるようなイメージです。
駈歩発進のコツ
「駈歩を出そうとしても速歩になってしまう」「発進はできるけど維持ができない」といった悩みは、初心者にとって大きな難関です。
なぜなら、駈歩の発進と維持には、たくさんの要素や条件が揃っていないといけないため、これまで教わったことをフルに活用する必要があります。
考えられる改善点を順に挙げていきます。
姿勢のブレ
姿勢は絶対的条件です。
「正しい姿勢を取れていなければ何もできない」と言っても過言ではありません。
正しい姿勢を取ることは、馬にとって運動がしやすく、騎手の扶助に耳を傾けやすい状況をつくっていると言えます。
不快に感じる姿勢で扶助を出されても、馬は運動をしようという気になりません。
どんなときでも正しい姿勢を維持するように心がけましょう。
正しい姿勢のつくり方はこちらで解説しています。
重心のブレ
姿勢と関連していますが、重心の位置は非常に大きな要素のひとつです。
外方脚を引き、内方脚のみを圧迫しようとすると、気付かないうちに外方に重心がブレてしまいがちです。
しかし、駈歩発進において内方姿勢は必須です。
脚や手綱は内方姿勢を取るように指示をしているのに、重心が外方にあると、馬がどうすればいいかわからなくなってしまいます。
全身で内方姿勢を取るように促しましょう。
また、左右だけでなく、前後のブレも大きく影響します。
前方にブレるのも後方にブレるのも望ましくないことは言うまでもありません。
前方にブレてしまうと、バランスバックができず、馬が前肢を上げ辛くなって駈歩をしなくなります。
後方にブレてしまうと、馬が前に出にくくなってしまいます。
いずれにせよ、駈歩の妨げになってしまいます。
騎手の重心が馬の重心からブレないように意識しましょう。
頸だけの内方姿勢
駈歩発進には内方姿勢が必要です。
よくある誤解ですが、「頸の内方屈撓 = 内方姿勢」ではありません!
もちろん頸の内方屈撓も要素のひとつではありますが、内方姿勢は馬体全体で取るものです。
内方脚が不十分な状態で内方手綱のみを控えても正しい内方姿勢は取れていません。
しっかりと内方脚で外へ押し出し、それを外方のハミと手綱と脚で支えることで内方姿勢が完成します。
内方の開き手綱や控え手綱は、馬の鼻先を少し内に向ける程度の役割でしかありません。
しっかりと内方脚を使って、馬体全体で内方姿勢を取れるようになりましょう。
そのためにも、普段おこなっている常歩や速歩での回転運動で、正しい内方姿勢を意識をしながら乗るということが大切です。
前進気勢(推進気勢)の不十分
どんなときでも馬に前進気勢がないと始まりません。
駈歩をする前から、しっかりと馬が前に出ている必要があります。
特に、常歩での運動が重要です。
常歩と駈歩は、背中が大きく動くという点が共通しています。
常歩での運動時に十分な柔軟性と踏み込みをつくることが、駈歩だけでなく、あらゆる運動の質につながってきます。
収縮の不十分
見落としがちですが、収縮は駈歩発進に必要な要素です。
馬が駈歩を始めるとき、内方前肢が高く上がります。
そのためには、馬の後躯に重心が寄り、前躯が軽くなった状態、すなわち収縮が必要なのです
賢い馬は収縮していなくても察して駈歩をしてくれますが、より騎手に従順な馬ほど収縮が必要になってきます。
ハミの外れ
駈歩は確かに3つの歩様の中で最も速い動きです。
そのため、駈歩発進は「より速い動きへの変換」であると思い込み、ハミを譲らなければいけない、と考えてしまうのは自然なことかもしれませんが、大きな間違いです。
むしろ、ハミはしっかりとしたコンタクトを取り続けるべきです。
まず、先ほど解説したように発進に収縮が不可欠です。
ハミを譲ってしまっては、収縮が崩れてしまい、発進すらしない可能性があります。
仮に駈歩発進の扶助で1歩目が出たとします。
このとき、馬が前肢をより高く上げたために、頸は収縮し、肩が高くなります。
それに対して、拳を固定したままだと、手綱が弛み、ハミが外れてしまいます。
(馬が頭頸を自身で支えるほどのセルフキャリッジがある場合は別ですが)
基本的に馬はハミを体重の支えのひとつとして利用します。
特に駈歩では、馬がハミを支点にしがちです。
そのため、馬の口に合わせて拳をしっかりと構える必要があります。
騎座のズレ
駈歩は馬の背中が大きくスイングする運動ですから、騎手は自ら腰を動かしたくなりますが、同調することができなければ、馬は不快感を覚えます。
また、騎座を完全に固定してしまえばよいということではありません。
固定した騎座と、大きくスイングする馬の背中の間にもズレが生まれてしまいます。
自らが騎座の動きをつくるわけでもなく、固定するわけでもなく、馬に随伴することが大切です。